2026年度の最低賃金はこう決まった — 全国平均1,177円、東京は1,280円
最低賃金は、いきなり金額が決まるわけではありません。3つの段階を踏んで各都道府県の金額が確定します。この流れを知っておくと、自社がいつ動けばよいかが逆算できます。
① 中央最低賃金審議会が「目安」を示す(毎年7月下旬〜8月上旬)。全国をランク分けし、引き上げ額の目安を答申します。
② 各都道府県の地方最低賃金審議会が金額を決める(8月〜9月頃)。目安はあくまで参考で、目安を上回る金額を決める県もあります。
③ 都道府県ごとに発効(10月前後)。ここではじめて法的な効力が生じます。
2025年度(令和7年度)の実績は、全国加重平均で1,121円。前年から66円の引き上げで、率にして6.3%という過去最大水準の改定でした。
2026年度は、7月28日に中央最低賃金審議会が目安(全国加重平均1,176円・+55円)を答申し、9月4日に全47都道府県の答申が出揃いました。確定した全国加重平均は1,177円、引き上げ額は56円(+5.0%)。目安を1円上回りました。前年度の66円・6.3%と比べると引き上げ幅は鈍りましたが、それでも過去2番目の水準です。
| 都道府県 | 2025年度 | 2026年度(確定) | 引き上げ額 | 発効日 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 1,226円 | 1,280円 | +54円 | 10月1日 |
| 神奈川県 | 1,225円 | 1,279円 | +54円 | 10月1日 |
| 大阪府 | 1,177円 | 1,231円 | +54円 | 10月1日 |
| 埼玉県 | 1,141円 | 1,196円 | +55円 | 10月1日 |
| 千葉県 | 1,140円 | 1,195円 | +55円 | 10月1日 |
| 愛知県 | 1,140円 | 1,195円 | +55円 | 10月1日 |
※ 47都道府県の全額と発効日は、厚生労働省または各都道府県労働局の公表をご確認ください。
目安の段階では、ランクごとにこう示されていました
| ランク | 対象地域 | 2026年度の目安額 |
|---|---|---|
| Aランク | 埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪 | +54円 |
| Bランク | 28道府県 | +56円 |
| Cランク | 13県 | +56円 |
目安の段階から、地方(B・C)の引き上げ幅が都市部(A)を2円上回る設計でした。地域間格差の是正が意識された結果で、地方に事業場を持つ企業ほど影響が大きくなります。
目安はあくまで目安で、各都道府県の地方最低賃金審議会が目安を上回る金額を決めることは珍しくありません。2025年度は47都道府県のうち39道府県が目安を超えました。
2026年度も目安を上回る答申をした県が多く、佐賀県は+65円(目安+9円)、高知県は+63円と大きく上乗せしています。Aランクでも千葉・埼玉・愛知は目安の54円を上回る+55円でした。その結果、全国加重平均は目安の1,176円を上回る1,177円で着地しています。
目安の数字で人件費を見積もっていた会社は、確定額で計算し直してください。
東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪・愛知など15都道府県は10月1日発効。本記事で挙げる5つの準備は、いずれも今から着手できます。
また、後述する業務改善助成金は「発効日の前日」が申請締切で、10月1日発効の都道府県では9月30日です。使うつもりがあるなら、この記事を読み終えたらすぐに動いてください(詳しくは第6回)。
自社の「発効日」を確認する — 今年は10月1日から12月2日まで
意外に知られていないのが、最低賃金の発効日は都道府県ごとに違うという事実です。「10月1日から一斉に変わる」と思い込んでいると、対応が後手に回ります。
2025年度は、最も早い栃木県が10月1日、最も遅い秋田県が翌2026年3月31日と、同じ改定なのに発効日に約6か月の開きがありました。2026年度は各県が早期答申を目指した結果、幅は約2か月に縮まりましたが、それでも一斉ではありません。
| 2026年度の発効日 | 都道府県 |
|---|---|
| 10月1日(15都道府県) | 北海道・宮城・栃木・埼玉・千葉・東京・神奈川・新潟・富山・岐阜・愛知・三重・大阪・兵庫・香川 |
| 10月2日〜10月末(22府県) | 上記以外の10月発効の府県(発効日は県ごとに異なります) |
| 11月(7府県) | 山梨・徳島・愛媛・大分(11月1日)、長崎(11月2日)、佐賀(11月15日)、京都(11月16日) |
| 12月(3県) | 岩手・熊本(12月1日)、沖縄(12月2日) |
「10月から」と思っている会社の半分は、10月1日ではありません
10月発効は37都道府県ですが、そのうち10月1日は15都道府県だけ。残りは10月中旬〜下旬に散らばっています。さらに11月・12月発効の府県が10あります。「10月1日から時給を変える」と社内で決め打ちしていると、自社の県では早すぎる(法的には問題ありませんが、人件費を余計に払う)か、逆に給与システムの切り替えが発効日に間に合わないかのどちらかが起きます。自社の事業場がある都道府県労働局の公表で、日付まで確認してください。
適用の基準は「支払日」ではなく「労働日」
給与計算で最も間違えやすいのがここです。最低賃金は、発効日以降に労働した分から新しい金額が適用されます。支払日を基準にするのではありません。
たとえば京都府(発効日11月16日)の会社で、給与の締めが月末、支払いが翌月25日という場合、11月分の給与のうち11月1日〜15日は旧額、11月16日以降は新額で計算する必要があります。ひと月のなかで単価が切り替わるため、給与システムの設定をこのタイミングで見直しておかないと、少額の未払いが発生します。
複数の事業場がある会社は「事業場ごと」に判定する
適用される地域別最低賃金は、本社の所在地ではなく実際に働いている事業場の所在地で決まります。本社が東京、支店が千葉、という会社なら、それぞれ別の金額で判定します。県境をまたいで通勤している社員がいる場合も、基準になるのは勤務地です。
また、業種によっては特定最低賃金(産業別の最低賃金)が設定されており、地域別最低賃金より高い金額が定められている場合があります。自社の業種に特定最低賃金があるかどうかも、あわせて確認しておきたいところです。
「うちは月給制だから関係ない」が一番危ない
最低賃金というと時給のパート・アルバイトの話だと思われがちですが、月給制の正社員にも当然に適用されます。しかも月給制のほうが、下回っていることに気づきにくい分だけ危険です。
月給を時間額に換算する
比較のしかたはシンプルで、月給を1か月平均所定労働時間で割ります。
月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 地域別最低賃金額
1か月平均所定労働時間 =(365日 − 年間所定休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12か月
例:年間休日120日・1日8時間の会社 →(365 − 120)× 8 ÷ 12 = 163.3時間
この会社で月給18万円の社員がいた場合、180,000円 ÷ 163.3時間 = 約1,102円。2026年度の東京都(1,280円)や神奈川県(1,279円)はもちろん、埼玉・千葉・愛知(1,195〜1,196円)でも下回ってしまう水準です。逆算すると、東京都で年間休日120日・1日8時間なら、月給は少なくとも約20万9千円(1,280円×163.3時間)必要です。「正社員だから大丈夫」という思い込みが、そのまま最低賃金法違反につながります。
比較に含めてよい賃金・含めてはいけない賃金
ここが実務で最もつまずくポイントです。月給の額面をそのまま割ってはいけません。最低賃金の対象から除外される賃金があるためです。
| 区分 | 該当する賃金 |
|---|---|
| 含める(対象になる) | 基本給、役職手当、資格手当、業務手当など、毎月決まって支払われる手当 |
| 含めない(除外される) | 時間外労働手当・休日労働手当・深夜労働手当/精皆勤手当/通勤手当/家族手当/臨時に支払われる賃金(結婚手当など)/1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など) |
とくに注意したいのが固定残業代(みなし残業代)です。月給25万円のうち5万円が固定残業代なら、最低賃金と比較できるのは残りの20万円だけになります。求人票の「月給25万円」を基準に安心していると、実際には下回っているというケースは珍しくありません。
地域別最低賃金を下回る賃金は、その部分が無効となり、最低賃金額で契約したものとみなされます。不足分は遡って支払う義務があり、賃金請求権の消滅時効は当面3年です。
さらに、最低賃金法違反として50万円以下の罰金が定められています。「知らなかった」は通用しません。
発効日までにやるべき5つの準備
ここまでを踏まえて、発効日までに終わらせておきたい実務を5つに整理します。いずれも金額の確定を待たずに着手できます。
複数拠点がある場合は拠点ごとに確認します。各都道府県労働局の発表を見て、社内カレンダーに発効日を書き込むところまでやっておくと、給与担当者との認識ずれが防げます。
時給者だけでなく、日給者・月給者も時間額に換算して一覧にします。固定残業代・通勤手当・家族手当を除外したうえでの金額です。この一覧が、改定額が発表された瞬間に「何人が影響を受け、いくら必要か」を即答できる土台になります。
月の途中で単価が変わる月について、日別に単価を切り替えるのか、月初から新額を適用するのかを決めます。全期間を新額にする運用は、社員に有利なため法的な問題は生じません。給与システムの設定変更を誰がいつ行うかも、この段階で決めておきます。
見落としがちなのが募集中の求人票です。発効日以降も旧額のまま掲載していると、応募者に対して最低賃金を下回る条件を提示していることになります。賃金規程の下限額、パート社員の雇用契約書の時給欄もあわせて棚卸しします。
最低賃金の引き上げは、底辺だけを押し上げます。その結果、入社したばかりの社員と、数年勤めた社員の時給がほぼ同じになるという逆転現象が起きます。定着率に直結する問題なので、底上げに合わせて上位層の賃金カーブも見直すかどうかを、経営判断として決めておく必要があります。
賃上げの原資をどう作るか
最低賃金の引き上げは、中小企業にとって確実なコスト増です。ただし、原資を「どこから削るか」だけで考えると必ず行き詰まります。①助成金 ②税制 ③省力化の3方向から組み立てるのが現実的です。
① 業務改善助成金 — 賃上げと設備投資をセットで
事業場内で最も低い時給を引き上げ、あわせて生産性向上のための設備投資を行った中小企業に対して支給される助成金です。令和8年度(2026年度)は、引上げ額の区分が50円・70円・90円の3コースに再編されました。
| 項目 | 令和8年度の内容 |
|---|---|
| コース | 引上げ額 50円/70円/90円 の3コース |
| 助成率 | 引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4 |
| 助成上限 | コースと引き上げる人数に応じて設定。事業主単位の年間上限は600万円 |
| 対象経費 | 機械装置、コンサルティング、研修、システム導入など生産性向上に資するもの |
| 申請期間 | 2026年9月1日〜事業場のある都道府県の最低賃金の発効日の前日(11月30日が上限)。10月1日発効の15都道府県は9月30日が締切 |
交付決定の前に発注・購入した設備は対象になりません。「先に機械を入れてから申請」は不可です。
一方で賃上げは、交付申請の後から発効日の前日までに実施する必要があります(審査には数か月かかるため、交付決定を待っていると発効日を過ぎてしまいます)。申請前に引き上げた場合も対象外です。つまり「申請 → すぐ賃上げ(発効日前)→ 交付決定 → 設備導入」という順序になります。
もう一つ、申請時点で一番低い時給がすでに改定後の最低賃金以上なら申請できません。東京都なら1,280円以上の会社は対象外です。締切・対象条件・段取りの詳細は第6回「業務改善助成金、東京・神奈川・大阪は9月30日が締切」にまとめました。
② 賃上げ促進税制 — 赤字でも5年間持ち越せる
中小企業向けの賃上げ促進税制では、給与等支給総額が前年度比で1.5%以上増加すれば15%、2.5%以上増加すれば30%の税額控除を受けられます(一定の上乗せ要件あり)。控除しきれなかった分を最大5年間繰り越せる措置もあるため、その年が赤字でも検討する価値があります。
ただし税制は改正が頻繁で、適用要件も年度によって変わります。具体的な適用可否は顧問税理士にご確認ください。社労士としてお伝えできるのは「賃上げをするなら、税制の適用も同時に検討しないと損をしやすい」という点までです。
③ 省力化 — 上がった人件費を吸収する
助成金も税制も、あくまで一時的な下支えです。継続的に上がり続ける人件費を吸収するには、同じ人数でこなせる仕事の量を増やすしかありません。勤怠集計・給与チェック・問い合わせ対応といった定型業務は、AIの活用で人が判断すべき件数そのものを減らせます。
具体的な進め方は、第3回「社労士が教える『AI×労務管理』で実現する働き方改革」で3か月の導入手順を、第2回「AI導入で使える補助金・助成金まとめ【2026年度版】」で設備投資に使える制度を整理していますので、あわせてご覧ください。
今年の改定で、御社の人件費はいくら増えますか?
影響を受ける人数と必要額を先に把握しておけば、助成金の申請にも間に合います。
Futures&Linkでは、賃金一覧の点検から原資づくりまで社労士の視点でご相談を承ります。
まとめ
最低賃金の改定は、「今年はいくら上がったらしい」とニュースで確認して終わる話ではありません。自社の発効日から逆算して動く実務です。
押さえるべきは3つです。発効日は都道府県ごとに違い、適用は労働日基準であること。月給制の社員こそ時間額を検算する必要があり、固定残業代や通勤手当は比較から除外すること。そして原資は削って捻出するのではなく、助成金・税制・省力化の3方向から作ること。
金額と発効日は確定しました。あとは自社の数字に落とし込むだけです。とくに業務改善助成金は、発効日の前日という締切に間に合うかどうかで結果が変わります。賃金一覧の作成は、今日からでも始められます。
次回(第5回)は、この秋のもう一つの大きな論点である「【2026年10月】106万円の壁が撤廃される — 自社は『いつから・何人』が対象になるのか」を取り上げています。あわせてご覧ください。
※ 本記事は2026年8月1日に目安答申にもとづいて公開し、2026年9月13日に全47都道府県の確定額・発効日を反映して更新しました。各都道府県の改定額および発効日は、事業場のある都道府県労働局の公表内容をご確認ください。