締切は自社の発効日の前日 — 15都道府県は9月30日

令和8年度の業務改善助成金は、2026年9月1日から交付申請の受付が始まっています。問題は締切です。申請の締切は「事業場のある都道府県の地域別最低賃金の発効日の前日」または「2026年11月30日」のいずれか早い日で、ほとんどの会社にとっては発効日の前日が締切になります。

その発効日が、9月4日に全47都道府県で確定しました。

都道府県 2026年度の最低賃金 引き上げ額 発効日 助成金の申請締切
東京都 1,280円 +54円 10月1日 9月30日
神奈川県 1,279円 +54円 10月1日 9月30日
大阪府 1,231円 +54円 10月1日 9月30日
埼玉県 1,196円 +55円 10月1日 9月30日
千葉県・愛知県 1,195円 +55円 10月1日 9月30日

※ 10月1日発効は、上記のほか北海道・宮城・栃木・新潟・富山・岐阜・三重・兵庫・香川を含む15都道府県。全国加重平均は1,177円(+56円)で、国の目安(1,176円)を1円上回りました。

9月30日
東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪・愛知など15都道府県の申請締切(郵送の場合は労働局への「到達」が基準)

発効日は都道府県によって異なり、10月発効が37都道府県、11月発効が7府県、12月発効が3県です。11月・12月発効の県は、まだ時間があります(本記事の後半で触れます)。

なぜ「発効日の前日」で締め切られるのか

理屈を知っておくと間違えません。この助成金は、事業場内で最も低い時間給(事業場内最低賃金)を、自主的に引き上げたことに対して支給されます。

ところが地域別最低賃金の発効日を過ぎると、その引き上げは法律で義務づけられた引き上げになります。義務でやったことに助成金は出せません。だから発効日より前に申請し、発効日より前に引き上げを実行する必要があるわけです。

「10月に最低賃金が上がったから、うちの時給も上げた」では対象になりません

発効日を待って動いた時点で、この制度は使えなくなります。使うつもりがあるなら、締切までに申請し、発効日より前に引き上げるという段取りを今すぐ組んでください。

そもそも申請できる会社の条件 — 見落とされている2つのルール

締切より先に確認すべきことがあります。厚生労働省のQ&Aには、多くの解説記事が触れていない2つの重要なルールが書かれています。

ルール1:一番低い時給が「新しい最低賃金」以上なら、申請できない

申請時点で、事業場で最も時給が低い労働者(雇用保険被保険者)の時給が改定後の地域別最低賃金以上であれば、申請できません

たとえば東京都の会社で、一番低い人の時給がすでに1,280円以上なら対象外です。逆に言えば、対象になるのは「今の最低賃金(東京なら1,226円)以上、新しい最低賃金(1,280円)未満」の時給の人がいる会社です。この助成金は、10月にどのみち引き上げなければならない会社に、「少し早く、少し多めに上げてくれたら設備投資を助成する」という制度だと理解してください。

自社が対象かどうかの即席チェック

① 事業場で一番時給が低い雇用保険被保険者は、時給いくらか?

② その額は、現在の地域別最低賃金以上か?(下回っていれば対象外。まず是正が必要)

③ その額は、改定後の地域別最低賃金未満か?(東京1,280円、神奈川1,279円、大阪1,231円…)

②と③の両方に「はい」なら、申請の余地があります。

ルール2:賃上げは「申請の後」「発効日の前」に実施する — 交付決定を待ってはいけない

ここが最も誤解されている点です。設備の発注は交付決定後でなければなりませんが、賃金の引き上げは、交付申請後から地域別最低賃金の発効日の前日までに実施する必要があります。審査には数か月かかるため、交付決定を待っていたら発効日を過ぎてしまいます

つまり首都圏の会社の段取りは、こうなります。

1
9月30日までに交付申請(郵送なら労働局への到達が基準)

電子申請なら送信日、郵送なら労働局に届いた日が申請日です。月末の郵送は余裕を見てください。

2
申請日の翌日〜9月30日の間に、賃上げを実施

就業規則(賃金規程)の改正と適用によって「実施した」と扱われます。改正した規程の適用日が申請日より前だと対象外になるので、日付の前後関係に注意してください。

3
交付決定を待って、設備を発注・導入

交付決定は申請から数か月後になります。設備の契約・納品は交付決定後。導入と実績報告は原則として翌年1月31日までに完了します。

賃上げは「先払い」になります

この段取りでは、交付決定が出る前に賃上げを実行することになります。審査の結果、不交付となった場合でも、引き上げた賃金を戻すことはできません。「助成金が出なくても、この賃上げは10月にどのみち必要なものだ」と言える範囲で計画するのが、リスクを抑えるコツです。

令和8年度は何が変わったか — 5つの変更点

令和8年度の業務改善助成金は、前年度から実務に影響する変更が入っています。過去の申請経験がある会社ほど、以前の感覚のままで進めると足をすくわれます。

項目 令和7年度まで 令和8年度
コース区分 30円・45円・60円・90円 50円・70円・90円の3コース
助成率の基準 事業場内最低賃金1,000円未満で4/5 1,050円未満で4/5(1,050円以上は3/4)
引き上げ対象者 週20時間以上の労働者 雇用保険被保険者かつ雇入れ後6か月経過
自動車の購入 用途により対象になる場合あり 特殊用途自動車を除き対象外
特例事業者の利益率要件 直近1か月で判定 直近6か月の平均が前年同期比3ポイント以上低下

特に効いてくるのが引き上げ対象者の要件です。「週20時間以上」から「雇用保険被保険者かつ入社6か月経過」に変わったことで、今年入ったばかりのパート社員は人数にカウントできません。人数区分で上限額が決まる制度なので、ここを勘違いすると申請額そのものが崩れます。

助成上限額(引き上げる労働者数 × コース)

上限額は「何円引き上げるか」と「何人引き上げるか」の組み合わせで決まります。

引き上げる労働者数 50円コース 70円コース 90円コース
1人 30〜40万円 40〜50万円 90〜100万円
2〜3人 40〜70万円 50〜100万円 150〜240万円
4〜5人 70万円 130万円 270万円
6〜7人 90万円 180万円 360万円
8人以上 110万円 230万円 450万円
10人以上 ※ 130万円 300万円 600万円

※ 10人以上の区分は、特例事業者が10人以上の賃金を引き上げる場合に対象となります。金額に幅がある区分は、事業場規模30人未満かどうかで変わります。助成率は事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4です。

1,050円という線を意識してください

事業場内最低賃金が1,050円未満なら助成率は5分の4、1,050円以上になると4分の3に下がります。200万円の設備投資なら、助成額にして10万円の差です。

判定は申請時点の事業場内最低賃金で行います。首都圏・関西圏の会社はほぼ全社が1,050円以上で4分の3になりますが、現在の最低賃金が1,100円前後の県では、1,050円未満の事業場がまだ残っています。自社がどちら側かは、申請前に必ず確認してください。

今週中にやること① 事業場内最低賃金と「引き上げる人」を確定する

この助成金の起点は、自社で最も時給が低い人は誰かを特定することです。ここが曖昧なまま設備の話から入ると、申請の直前で計画を作り直すことになります。

1
事業場ごとに、全員の時間額を並べる

時給者はそのまま、月給者・日給者は時間額に換算して比較します。換算の方法は第4回「2026年度の最低賃金はいくら上がる?」で詳しく解説しました。ここで最も低い額が、その事業場の「事業場内最低賃金」です。

2
引き上げの対象にできる人を絞り込む

令和8年度は雇用保険の被保険者であること雇入れから6か月を経過していることの両方が必要です。週20時間未満で雇用保険に入っていない人、今年入社したばかりの人は人数に数えられません。

3
「何円・何人」を決める

上限額は人数区分で大きく変わります。たとえば90円コースなら、1人だけの引き上げで90〜100万円、4〜5人なら270万円。設備の見積額に対して上限が足りているかを先に確認し、そこから逆算して計画を組み立てます。

なお、引き上げ後の時間額は新しい地域別最低賃金以上に設定してください。東京都なら、現在の最低賃金1,226円の人を50円上げても1,276円で、10月1日の1,280円に届きません。東京都の場合は最低でも+54円(50円コースの要件は満たします)、神奈川も同様に+54円が下限になります。「コースの引き上げ額」と「新しい最低賃金」の両方を満たす額で計画してください。

今週中にやること② 設備の見積書を取る(ただし発注は絶対にしない)

業務改善助成金でいちばん多い不支給理由が、これです。

交付決定通知を受け取る前に発注すると、全額が対象外になります

設備に関する順序は①申請 → ②交付決定通知 → ③発注・契約・納品 → ④実績報告。この順番は絶対で、例外はありません(賃上げだけは前述のとおり、申請後すぐに実施します)。

「先に買っておいて後から申請する」「内示をもらったから発注した」はいずれも不可です。採択通知と交付決定通知は別物である点にも注意してください。

したがって今やるべきことは、見積書を取るところまでです。契約書へのサイン、注文書の送付、内金の支払いはすべて交付決定を受けた後になります。設備業者には「交付決定が出るまで発注できない。納期はその後で構わないか」を先に確認しておいてください。

何が対象になるか

「生産性向上に資する設備投資等」が対象です。中小企業で実際に申請が通りやすいのは次のようなものです。

対象になるもの 対象にならないもの
POSレジ・券売機・自動精算機 修繕費・消耗品
勤怠管理システム・給与計算システム 人件費・家賃
受発注・在庫管理システム 自動車(特殊用途自動車を除く)
省力化のための機械設備 汎用パソコン・タブレット(特例事業者を除く)
社会保険労務士などによるコンサルティング費用 交付決定前に発注したもの

令和8年度から自動車が原則として対象外になった点は、運送・訪問系の事業者にとって大きな変更です。前年度の感覚で車両を計画に入れると、申請段階で組み直しになります。

また、パソコンやタブレットの新規導入は特例事業者だけが対象です。特例事業者とは、事業場内最低賃金が1,050円未満の事業者、または直近6か月の平均利益率が前年同期と比べて3ポイント以上低下している事業者を指します。

今週中にやること③ 申請書類を揃え、賃上げの段取りを決める

申請先は、事業場の所在地を管轄する都道府県労働局です。電子申請にも対応していますが、GビズIDをまだ持っていない場合はIDの発行に日数がかかるため、9月30日が締切の会社は郵送または持参を前提に動いたほうが確実です。郵送は「到達日」が申請日になるので、月末ぎりぎりの投函は避けてください。

提出時に必要になる主な書類は次のとおりです。特に過去6か月分の賃金台帳は不備による差し戻しが多い書類なので、最初に確認してください。

今週中に手元に揃える書類

賃金台帳(直近6か月分/事業場内最低賃金を確認できるもの)

労働者名簿(雇入れ年月日が分かるもの)

雇用契約書・労働条件通知書(引き上げ対象者分)

就業規則または賃金規程(10人未満で未作成の場合は賃金の定めが分かる書類)

設備の見積書(機種・数量・金額が特定できるもの)

登記事項証明書など事業所の実在を確認できる書類

賃金台帳と労働者名簿は、そのまま労働基準監督署の調査でも見られる書類です。この機会に不備がないか点検しておくと、助成金の申請以外にも効いてきます。

賃上げの段取りも同時に決める

申請の直後に賃上げを実施するため、賃金規程の改正案と適用日を、申請前に決めておく必要があります。適用日は「申請日の翌日以降、9月30日以前」の範囲に置きます。10人以上の事業場は改正した就業規則の届出も必要になるので、労働者代表の意見聴取まで含めて日程を引いてください。

不支給になる典型パターン 4つ

申請までこぎつけたのに支給されなかった、というケースには共通した型があります。

① 交付決定前に発注してしまった

最も多い失敗です。設備業者から「今なら在庫がある」と言われて先に押さえてしまう、というパターンが典型。交付決定通知の日付より前の見積・契約・納品・支払いはすべて対象外です。

② 賃上げの実施が地域別最低賃金の発効日以降になった

発効日を過ぎてからの引き上げは「義務による引き上げ」とみなされ、助成の対象になりません。逆に申請日より前に引き上げてしまった場合も対象外です。賃上げの実施日(規程の適用日)は「申請日の後、発効日の前」に置いてください。

③ 引き上げ対象者が要件を満たしていなかった

令和8年度は雇用保険被保険者かつ雇入れ後6か月経過が必要です。「5人引き上げるつもりが、要件を満たすのは3人だった」となれば、上限額の区分が下がります。

④ 実績報告の期限に間に合わなかった

交付決定を受けたら終わりではありません。設備の導入・支払い・賃上げを完了し、期限までに実績報告を提出して初めて支給されます。年度をまたぐ設備は納期の確認が必須です。

首都圏で間に合わない場合、11月・12月発効の県の場合

9月中旬の時点で、設備の候補が決まっていない、事業場内最低賃金の確認もこれから——という状態なら、10月1日発効の都道府県では現実的に厳しいと考えたほうがよいです。交付決定前の発注や、日付の前後を誤った賃上げは、いずれも不支給に直結します。急いで形だけ整えるほうが損失は大きくなります。

11月・12月に発効する府県は、まだ間に合います

発効日 都道府県 助成金の申請締切
11月1日 山梨・徳島・愛媛・大分 10月31日
11月2日 長崎 11月1日
11月15日 佐賀 11月14日
11月16日 京都 11月15日
12月1日・12月2日 岩手・熊本・沖縄 11月30日 ※

※ 締切は「発効日の前日」と「11月30日」の早いほう。12月発効の県は11月30日が上限になります。10月2日以降に発効する府県は、発効日の前日が締切です。自社の都道府県の発効日は労働局の公表でご確認ください。

これらの県では、本記事の3つの準備を今から進めれば十分に間に合います。ただし予算の上限に達すると期間内でも受付が終了するため、早いに越したことはありません。

今年は使えない、と判断した場合

その場合でも、賃上げの原資づくりには別の手が残っています。

今年間に合わなくても使えるもの

賃上げ促進税制:給与総額を前年より増やした中小企業が、増加額の一定割合を法人税から控除できる制度。赤字でも控除しきれなかった分を5年間持ち越せます

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース):有期雇用労働者等の基本給を引き上げた場合に支給。業務改善助成金とは要件が異なります。

省力化・自動化への投資:上がった人件費を、そもそも必要な労働時間を減らすことで吸収する考え方。

そのうえで、来年度に向けた準備を今から始めるのが得策です。事業場内最低賃金の把握、賃金台帳の整備、設備の候補出しは、いつやっても無駄になりません。受付が9月開始で固定されるなら、来年は8月から動けばよいということでもあります。

9月30日までに申請できますか?

自社が対象かどうかの判定、対象者の絞り込み、賃金規程の改正と申請日の前後関係——残り2週間で詰めるべき点は決まっています。Futures&Link社会保険労務士事務所では、業務改善助成金の申請支援を行っています。

申請について相談する →

まとめ

業務改善助成金は、最低賃金の引き上げというコスト増を、設備投資の原資に変えられる数少ない制度です。ただし締切は自社の発効日の前日で、15都道府県は9月30日。そして「一番低い時給がすでに新しい最低賃金以上なら申請できない」「賃上げは申請後・発効日前に実施する」という2つのルールを外すと、締切に間に合っても支給されません。

今週中にやる3つのこと

① 自社が対象かを判定し、引き上げる人数と額を決める(一番低い時給が「現在の最低賃金以上・新しい最低賃金未満」か/雇用保険被保険者・入社6か月以上/東京は+54円以上)

② 設備の見積書を取る(発注は交付決定を受けてから)

③ 書類を揃え、賃金規程の改正案と適用日を決める(適用日は申請日の翌日〜9月30日)

この3つが今週中に終わっていれば、来週申請して月内に賃上げを実施する日程が組めます。11月・12月発効の県は、同じ手順をひと月遅れで進めれば間に合います。

次回(9月19日公開)は2026年10月1日に迫った社会保険の適用拡大について、従業員説明会をどう設計し、どんな質問にどう答えるかを取り上げます。制度の中身と自社の対象判定については第5回「【2026年10月】106万円の壁が撤廃される」をご覧ください。

※ 本記事は2026年9月13日時点の情報にもとづいています。最低賃金の額・発効日は各都道府県労働局の公表、業務改善助成金の要件は厚生労働省の交付要領・Q&A(令和8年7月版)によります。要件・様式・受付状況は変更されることがあり、予算の上限に達した場合は期間内でも受付が終了します。申請にあたっては、厚生労働省および事業場を管轄する都道府県労働局が公表する最新の交付要領・申請マニュアルを必ずご確認ください。